SNSで見かける「有名人が投資を勧めている広告」の多くは、AIで顔と声を作った偽物です。これが投資詐欺の入口になっています。
政府が8月7日、Google・Meta・X・TikTok・LINEヤフーの5社に対して、「広告を出す人の身元を確認しろ」「誰が出した広告か画面に表示しろ」「消せと言われたらすぐ消せ」と正式に要請しました。実施した件数は来年3月までに数字で報告させます。
同じ日に、暗号資産交換業者などがサイバー攻撃を受けたときの報告書の様式を変える案も出ました。こちらは事業者と当局のあいだの手続きの話で、利用者が取引所でする手続きは変わりません。
以下、それぞれを一次情報に当たって整理します。
2026年8月7日、政府がSNS等を提供する事業者5社に対して、なりすまし詐欺広告への対策強化を要請しました。同じ日に金融庁は、サイバー攻撃被害の報告様式を事案区分ごとの共通様式へ整理する監督指針・事務ガイドラインの改正案も公表しています。改正案の対象には暗号資産交換業者関係の事務ガイドラインが含まれます。
この記事では、この2件を一次情報に当たって整理します。制度情報の整理であり、特定の投資判断や資産の移動を推奨するものではありません。
この記事で分かること
- SNS5社への要請の概要(2026年8月7日)
- 要請された3項目
- 3項目に共通する報告のスケジュール
- 要請文が引用している被害データ
- 暗号資産との関係
- 同日公表:サイバー攻撃被害の報告様式に関する改正案
- 現時点で未確定の事項
SNS5社への要請の概要(2026年8月7日)
正式名称は「SNS等におけるなりすまし詐欺広告に関する対策の強化について(要請)」です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発出日 | 令和8年(2026年)8月7日 |
| 発出者 | 警察庁刑事局長、金融庁銀行・証券監督局長、金融庁資産運用・保険監督局長、消費者庁次長、デジタル庁国民向けサービスグループ統括官、総務省大臣官房総括審議官(情報通信担当)、法務省民事局長、経済産業省商務情報政策局長(8名連名・7府省庁) |
| 取りまとめ | デジタル庁 戦略・組織グループ統括官 |
| 宛先 | Google LLC、LINEヤフー株式会社、Meta Platforms, Inc.、TikTok Japan、X Corp. の5社 |
| 位置付け | 行政手続法(平成5年法律第88号)第2条第6号に規定する行政指導。同条第2号の処分には該当しない(要請文の注記) |
要請文では、SNS等においてディープフェイクを用いて著名人の肖像や音声を無断で利用したなりすまし広告を含む詐欺広告が広く流通し、これを端緒とするSNS型投資詐欺等の被害が拡大している状況が挙げられています。
要請文が自ら「行政手続法上の行政指導に該当し、処分には該当しない」と明記している点は、この文書の性格を読むうえでの前提になります。
要請された3項目
要請文の「記」以下に記載された項目は次の3つです。
1 広告主への本人確認の確実な実施
広告主の特定と追跡を可能とすることで、なりすまし詐欺広告の流通を抑止する観点から、電子的な認証手段の活用を含む広告主への本人確認を、確実に実施することとされています。
注記では、電子的な認証手段による確実な本人確認の手段の一つとして、個人についてはマイナンバーカード、法人については商業登記電子証明書が挙げられています。
2 広告の透明性向上に係る措置の実施
広告主や広告の信頼性を消費者・利用者等が自ら確認できるようにする観点から、掲載される広告において次の情報を確認できるようにするなどの措置を講ずることとされています。
- 広告主に関する情報(広告主の名称、所在地及び身元確認の有無等)
- 広告の情報(広告である旨、主に生成AI技術を用いて作成された広告である旨、広告表示理由等)
3 削除要請への対応の徹底
刑法(明治40年法律第45号)や金融商品取引法(昭和23年法律第25号)等の各種法令等に違反するおそれがあるなりすまし詐欺広告について、インターネット・ホットラインセンター等の既存の窓口等や法令所管省庁から削除要請を受けた際には遅滞なく判断を行い、迅速かつ適切に削除等の対応を行うこととされています。
この項目には、参照される法令について2つの注記が付いています。
刑法について:著名人の名義を無断で使用して虚偽の投資実績を紹介する内容を表示するなどして偽造された事実証明に関する電磁的記録文書等をインターネット上に流通させるなどして行使した場合、刑法第161条第1項(偽造私電磁的記録文書等行使の罪)等に違反し得るとされています。あわせて、インターネット・ホットラインセンターの「ホットライン運用ガイドライン」が令和8年8月7日に、総務省の「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律第26条に関するガイドライン」が令和8年8月6日に改定され、新たに違法情報として明記されたことが記載されています。
金融商品取引法について:無登録業者等が、一見してそれ自体では金融商品取引業に該当しないかのような広告等を入口として、その閲覧者を誘導した先のウェブサイトやSNS等において金融商品取引業に該当する行為等を行う場合には、これらの一連の行為は金融商品取引法第29条等に違反し得るとされています。
後者は、広告そのものの表示内容だけでなく、広告から誘導された先での行為までを一連の行為として捉え得るという整理です。無登録の金融商品取引業に関する法的整理であり、詐欺罪の成否とは別の論点です。なお、SNSの広告や投稿を入口とする投資勧誘の手口についてはSNS型投資詐欺の記事で扱っています。
3項目に共通する報告のスケジュール
3項目はいずれも、実施だけでなくデジタル庁への文書報告を求める構成になっています。期日は3項目で共通です。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 令和8年10月16日まで | 具体的な実施内容をデジタル庁戦略・組織グループへ文書で報告 |
| 令和8年10月1日〜令和9年2月28日 | 報告した取組を実施する期間 |
| 令和9年3月16日まで | 実施した取組の結果をデジタル庁へ文書で報告 |
結果報告の内容は3項目それぞれについて指定されています。本人確認については、本人確認の手段ごと及び国内外別の実施件数・割合、手段ごとの本人確認の不備を理由とした掲載却下の件数・割合等。透明性向上については、具体的に広告上に表示した情報の内容、表示した情報の内容ごとの広告の件数・割合等。削除要請への対応については、削除の理由別・契機別の削除件数のほか、要請があった主体ごとの要請件数に対する削除件数の割合、平均対応所要時間、未削除件数の理由別内訳等が挙げられています。
要請の実施状況が数値で提出される設計になっているのが、この文書の特徴です。
要請文が引用している被害データ
要請文の注記では、警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)」が引用されています。
SNS型投資詐欺の当初接触手段のうち、バナー等広告の接触ツールとして割合が大きいものとして挙げられているのは次のとおりです。
- YouTube(27.1%)
- Instagram(16.3%)
- TikTok(10.4%)
- Facebook(6.5%)
- LINE(4.8%)
- X(2.1%)
注記に挙がった6サービスと宛先5社は、運営するサービスの関係で対応付けることができます。ただし要請文は、宛先の選定理由を明示していません。数値の母数と定義は警察庁の確定値資料に定められたものであり、SNS型投資詐欺全体に占める割合とは異なる区分です。
暗号資産との関係
要請文の本文に「暗号資産」の語は出てきません。一方で、金融庁の公表ページに記載された問い合わせ先は次の2つです。
- 金融庁 銀行・証券監督局証券課
- 金融庁 資産運用・保険監督局暗号資産・ステーブルコイン課
暗号資産・ステーブルコイン課は、2026年8月7日付の組織再編で置かれた課です。同課が問い合わせ先に含まれているという事実は確認できますが、要請の内容自体に暗号資産に固有の記述はありません。
なお、前日の2026年8月6日には、金融庁・警察庁が日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)に対して暗号資産交換業者向けの11項目の要請を発出しています。両者は日付が隣接し、金融庁側の所管部署にも重なりがありますが、宛先も要請事項も別の文書です。8月6日の要請の内容は別の記事で整理しています。
同日公表:サイバー攻撃被害の報告様式に関する改正案
同じ2026年8月7日、金融庁は「『主要行等向けの総合的な監督指針』等の一部改正(案)」を公表し、意見募集を開始しました。
金融庁の公表資料によれば、「サイバー攻撃による被害が発生した場合の報告手続等に関する申合せ」(令和7年5月28日関係省庁申合せ)の改正を踏まえ、従来の「DDoS攻撃事案共通様式」「ランサムウェア事案共通様式」に加えて「その他サイバー攻撃等事案共通様式」が整備されたことに対応する改正です。単一の様式にまとめるのではなく、事案の区分ごとに定められた共通様式で報告する形へ改める内容です。
対象は監督指針・事務ガイドライン17本で、そのうち次の3本が暗号資産・電子決済手段の分野にあたります。
- 事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係 16 暗号資産交換業者関係)
- 事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係 17 電子決済手段等取引業者関係)
- 事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係 18 電子決済手段・暗号資産サービス仲介業者関係)
何が変わる案なのか
暗号資産交換業者関係の新旧対照表で、現行と改正案を並べると次の差になります。
現行:システム障害やサイバーセキュリティ事案を認識次第、直ちに事実を当局へ報告したうえで、「障害発生等報告書」(別紙様式1)により報告する。ただしDDoS攻撃事案は「DDoS攻撃事案共通様式」、ランサムウェア事案は「ランサムウェア事案共通様式」による報告も可能とする。
改正案:事案を次の3区分に分け、それぞれ定められた様式により報告する。
- a.DDoS攻撃事案 → DDoS攻撃事案共通様式(関係省庁申合せ 別添様式1)
- b.ランサムウェア事案 → ランサムウェア事案共通様式(同 別添様式2)
- c.上記a.及びb.に該当しない事案 → その他サイバー攻撃等事案共通様式(同 別添様式3)
現行にはa.〜c.の区分の記載がなく、新旧対照表の現行欄は「(新設)」となっています。様式1と様式2は現行にも記載がありますが、様式3は現行に記載がありません。共通様式による報告が「可能」とされていた形から、事案区分ごとに定められた様式で報告する形へ整理される内容です。
経過措置:令和9年3月末までの間は、経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(令和4年法律第43号)の規定に基づき金融庁長官から特定社会基盤事業者として指定された者以外については、「障害発生等報告書」(別紙様式1)による報告も可能とされています。この経過措置は令和9年3月末までの期間に限られており、それ以降は指定の有無にかかわらず事案区分に応じた共通様式で報告する案になっています。
意見募集の期限
意見募集の締切は令和8年(2026年)9月7日(月曜)17時00分(必着)です(e-Gov)。現時点では改正案の段階であり、確定した内容ではありません。
これは事業者から当局への報告様式に関する改正案であり、利用者が交換業者に対して行う手続きを直接変更するものではありません。
現時点で未確定の事項
2026年8月8日時点では、次の点が確定していません。
1. SNS5社の実施内容
要請文は、本人確認について「電子的な認証手段の活用を含む」ことを求め、透明性向上について表示対象の例を挙げ、削除については法令違反のおそれや削除要請への対応を定めています。そのうえで、具体的な実施内容は各社が令和8年10月16日までにデジタル庁へ報告する構成です。個々の手段や運用が実際にどうなるかは、この報告を待つことになります。
2. 監督指針・事務ガイドラインの改正内容
意見募集中であり、令和8年9月7日の締切後にどう確定するかは示されていません。適用開始の時期も、改正案の公表資料には示されていません。
3. 交換業者側の実務負担
「その他サイバー攻撃等事案共通様式」(別添様式3)は関係省庁申合せの別添であり、暗号資産交換業者に生じる報告実務の負担は、その様式の記載事項に依存します。様式の内容は今回の改正案の新旧対照表には含まれていません。
まとめ
- 2026年8月7日、7府省庁8名の連名で、Google LLC・LINEヤフー株式会社・Meta Platforms, Inc.・TikTok Japan・X Corp. の5社に「SNS等におけるなりすまし詐欺広告に関する対策の強化について(要請)」が発出された
- 要請事項は3項目(「広告主への本人確認の確実な実施」「広告の透明性向上に係る措置の実施」「削除要請への対応の徹底」)。いずれも令和8年10月16日までの実施内容報告と、令和9年3月16日までの結果報告を伴う
- 要請文は、自らを行政手続法第2条第6号の行政指導であり処分ではないと明記している
- 注記では、無登録業者が広告を入口として誘導先で金融商品取引業に該当する行為を行う場合、一連の行為が金融商品取引法第29条等に違反し得るとされている
- 要請文本文に暗号資産の記述はない。金融庁側の問い合わせ先の一つが暗号資産・ステーブルコイン課である
- 同日、サイバー攻撃被害の報告を事案区分ごとの共通様式へ整理する監督指針等17本の改正案が公表され、暗号資産交換業者関係・電子決済手段等取引業者関係・電子決済手段・暗号資産サービス仲介業者関係の事務ガイドラインが含まれる
- 改正案は意見募集中(締切:令和8年9月7日17時00分)で、確定していない
制度の内容は変更される可能性があります。金融庁・デジタル庁・警察庁の一次情報が、内容と時期を確認する際の材料になります。
※本記事は投資に関する一般的な情報・注意喚起を目的としたものであり、特定の個人・団体・商品を指すものではありません。投資の最終判断はご自身の責任で行ってください。元本保証はなく、損失が生じる可能性があります。
運営: 株式会社シンセイサービス
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