同じ取引所のアプリでビットコインを買うとき、「販売所」で買うか「取引所」で買うかで、払うコストが変わります。多くの国内サービスは、この2つを1つのアプリの中に持っています。
金融庁が、その画面のつくりに触れました。業界団体との意見交換会で、収益性の高い「販売所」のほうへ利用者を誘導しているのではないかという指摘(金融庁の資料では「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」の報告書で指摘された懸念として紹介されています)を取り上げ、「販売所」「取引所」の画面上の導線を含めて、何が顧客本位かを協会と対話していく、と述べています。
会議が開かれたのは2026年7月15日で、その資料が9月17日に公表されました。規制やUIの変更が決まったわけではありません。導線について金融庁が自ら行うと書いているのは「よく対話していきたい」までです。
この記事で分かること
- 金融庁の資料が販売所について何を書いているか(原文のまま)
- 販売所と取引所は何が違うのか
- 協会に求められた4つのこと
- 2027年4月1日から対面の本人確認が変わること
- 資料に書かれていないこと
本記事は金融庁の公表資料の記載を整理したものであり、特定の投資判断や取引方法を推奨するものではありません。
何が公表されたのか
金融庁は、業界団体と開いた意見交換会で自ら提起した論点を業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点のページで公表しています。今回公表されたのは、2026年7月15日開催 日本暗号資産等取引業協会の回の資料(PDF・全9ページ)です。
相手方は一般社団法人日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)で、暗号資産交換業などの自主規制団体です。
資料は6つの項目でできています。
- 国内外の情勢の動向を踏まえた対応について
- ①暗号資産交換業等を取り巻く当面の課題等について/②暗号資産交換業等におけるサイバーセキュリティ強化に向けた取組方針
- サイバーセキュリティに関する取組について
- マネロン等及び金融犯罪対策に係る最近の動向
- 2026年6月FATFプレナリー会合について
- 2026年2月13日付け金融活動作業部会(FATF)声明に係る要請について
開催は7月15日、公表は9月17日です。資料は開催時点の発言をまとめたもので、その後の経過は書かれていません。
販売所と取引所の違いは?
金融庁の資料は、この2つを定義していません。一般的には次のように整理されます。
| 売買の相手 | 価格の決まり方 | |
|---|---|---|
| 販売所 | 暗号資産交換業者(運営会社) | 業者が提示する売値・買値。その差が「スプレッド」 |
| 取引所 | ほかの利用者 | 利用者どうしの注文を突き合わせて成立する(板取引) |
販売所は数量を入れればすぐ成立するぶん、業者の提示する売値と買値の差(スプレッド)が実質的なコストになります。取引所は板に注文を出す形で、別に取引手数料が設定されていることが多い形式です。どちらの形式も国内の交換業者が広く提供しています。
コストの考え方そのものはスプレッド・手数料とは?取引コストを初心者向けに解説【2026年版】で扱っています。
金融庁の資料は販売所について何を書いているか
資料の「2.①暗号資産交換業等を取り巻く当面の課題等について」に、次の記載があります。
利用者保護の強化について。「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」の報告書では、「販売所」と「取引所」の2種類のサービスを提供する事業者において、「取引所」よりも収益性の高い「販売所」での取引を誘導しているのではないかとの懸念も指摘されている。
続けて、根拠となる義務が挙げられています。次は資料の原文です。
2024年11月に施行された金融サービス提供法の改正により、暗号資産交換業者を含め、全金融事業者等に、「顧客等の最善の利益を勘案しつつ、顧客等に対して、誠実かつ公正に業務を遂行する義務」が導入されている。
ここでいう「改正」は、2023年(令和5年)11月20日に成立した金融商品取引法等の一部を改正する法律です。金融庁の概要資料には、「最終的な受益者たる金融サービスの顧客や年金加入者の最善の利益を勘案しつつ、誠実かつ公正に業務を遂行すべきである旨の義務を、金融事業者や企業年金等関係者に対して幅広く規定」と書かれています。この法律の施行期日は「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」とされており、今回の資料は、この義務が2024年11月に施行されたと書いています。
なお、法律の名称が「金融商品の販売等に関する法律」から「金融サービスの提供に関する法律」に変わったのは、これとは別の改正です。名称が変わった時点と、この義務が入った時点は同じではありません。
そのうえで、金融庁がやると書いているのは「対話」です。
「販売所」「取引所」のUIにおける導線をはじめとして、今後、どういった対応が顧客本位であるかなどについて、よく対話していきたい。あわせて、金商法の下で求められる自主規制規則の整備に際しては、適切な顧客への情報提供や適合性原則の在り方についても、しっかり議論していただきたい。
ここで確認できることは3つです。
- この懸念は、金融庁自身の認定ではなく、「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」の報告書で「指摘されている」ものとして紹介されています。資料は特定の事業者が誘導していると認定していません。社名も出てきません
- 対象は画面上の導線(UI)を含むと書かれています。どの画面をどう直すのかは書かれていません
- 金融庁が自ら行うと書いているのは「よく対話していきたい」です。一方、協会に対しては、自主規制規則の整備に際して適切な情報提供や適合性原則の在り方を「しっかり議論していただきたい」としています。命令・処分や、具体的なUIの変更の決定は書かれていません
なお「適合性原則」は、顧客の知識・経験・財産の状況・取引の目的などに照らして不適当な勧誘を行わない、という考え方を指す言葉です。資料には、自主規制規則を整備するときにこの在り方も議論するように、と書かれています。
協会に求められた4つのこと
資料の冒頭で、金融庁は「本日は四点お願いをしたい」として次を挙げています。
- 理事の在り方の整理 — 5名の会員理事をはじめとする理事に何が求められるかを協会として整理し、関係者で共有すること。「知見や倫理観といった兼ね備えるべき要素があるはずである」と書かれています
- 自主規制機能の強化の加速 — 各種委員会を早期に立ち上げて機能させること
- サイバーセキュリティの強化 — いわゆる「フロンティアAI」の発展を踏まえたもの
- 利用者のリテラシー向上 — 金融経済教育推進機構(J-FLEC)との連携強化・協働を手はじめに取り組むこと
4つ目の背景として、資料は「金商法等の改正や、申告分離課税への税制改正などを経て、利用者の裾野は今後拡大していくことが見込まれる」「他方、暗号資産を用いた詐欺被害は引き続き少なくない」と書いています。
事務局の体制についても、「セキュリティ監査や不公正取引の売買審査などの専門家を含め、必要な人材確保を進めていただきたい」と要請されています。
金融行政方針の側の記載は金融庁が2026事務年度の金融行政方針を公表|口座開設の直後に暗号資産をアンホステッド・ウォレットへ移せない「熟慮期間」の制度的対応を進めると明記【2026年9月】で扱っています。
サイバーセキュリティ:フィッシングとTLPT実証事業
資料には、利用者側の被害に触れた記載があります。
一部の暗号資産交換業者においては、フィッシングにより顧客が会員IDやパスワードが盗まれ、不正な送金の被害が発生している。
資料には、各業態の特性に応じて講ずべき対応を事務ガイドラインに反映するため「2026年2月27日に改正版を公表した」と書かれています。そのうえで、「自社で発生していない場合であっても他人事とせず、対応可能な対策から順次速やかに対応いただきたい」と業者側に述べています。
もう1つがTLPT(脅威ベースのペネトレーションテスト)の実証事業です。実際の攻撃者の手法を想定した模擬攻撃で、防御や対応の能力を検証するものです。資料には次のように書かれています。
本事業では、複数の暗号資産交換業者に御協力いただき、委託先事業者によりTLPTを実施し、御協力いただいた暗号資産交換業者へ還元するとともに、TLPTの有効性など、業界全体に共通する知見があれば、業界全体に還元していきたい。
昨年度の補正予算に基づく事業で、対象となる事業者名や実施時期は書かれていません。
2027年4月1日から対面の本人確認が変わる
資料のなかで、利用者の手続きが実際に変わると書かれているのはここだけです。金融庁の資料には、次のように書かれています。
2026年3月6日に犯罪収益移転防止法施行規則が改正され、対面で写真付き本人確認書類の提示を受ける現行の方法につき、対象書類をICチップ付きのものに限定するとともに、当該ICチップの情報の読み取りを必須とすること、また、それ以外の確認方法は原則として廃止されることが決まった。
施行時期も書かれています。
2025年6月の非対面での本人確認方法に係る改正と同様に、2027年4月1日の施行となるため、各金融機関においては、システム対応等を着実に進めていただきたい。
つまり、改正はすでに済んでいて(2026年3月6日)、施行が2027年4月1日という段階です。対面で写真付きの本人確認書類を示す方法は、ICチップ付きの書類に限定され、そのICチップの読み取りが必須になる、と書かれています。それ以外の確認方法は原則として廃止されます。
対象は対面で写真付き本人確認書類の提示を受ける方法であって、口座開設の場面に限られていません。資料には、どの書類が「ICチップ付き」に当たるかの列挙も、すでに口座を持っている人の扱いも書かれていません。
自分に関係があるか、どこで確認できるか
今回の資料は行政と自主規制団体のあいだのやり取りで、利用者が今すぐ何かをすることになるとは書かれていません。資料の記載から、確認項目になるのは次の点です。
- 販売所と取引所の両方を使える口座を持っている場合 — いま自分がどちらの画面にいるかは、注文画面の表記で見分けられます。資料が対話の対象としているのは、この導線の設計です
- コストの見え方 — 販売所は売値と買値の差、取引所は取引手数料という形になります。適用される数値は、利用している交換業者の公式の案内で確認できます。口座を選ぶときの観点は取引所・証券会社の選び方 ── 初心者が確認したい4つの観点【2026年版】で扱っています
- 2027年4月1日以降に、対面で写真付き本人確認書類を用いる本人確認を行う場合 — 方法が変わることが決まっています。口座開設の場面に限られません。具体的な運用は各社の案内で示されます
- 海外の事業者を使っている場合 — 今回の資料は国内の自主規制団体あてのものです。無登録業者の一覧は無登録で暗号資産交換業を行う者の名称等についてで公表されています(当サイトの記事でも扱っています)
この件が示していること
この資料では、利用者保護の論点として、取引コストにも関わるUIの導線が挙げられています。そして根拠として引かれているのは、暗号資産に固有の規制ではなく、2024年11月施行の金融サービス提供法改正で全金融事業者等に導入された「顧客等の最善の利益」の義務です。
資料に出てくる日付を、段階別に並べると次のようになります。
| 時期 | 段階 | 内容 |
|---|---|---|
| 2024年11月 | 施行 | 金融サービス提供法改正。全金融事業者等に顧客等の最善の利益を勘案する義務 |
| 2026年3月6日 | 改正 | 犯収法施行規則。対面の本人確認をICチップ読み取りに限定(施行は2027年4月1日) |
| 2026年7月15日 | 意見交換会 | 金融庁が販売所への誘導の懸念に言及、UIの導線を対話の対象に |
| 2026年9月17日 | 公表 | 上記の資料が金融庁サイトに掲載 |
この種の資料を読むときに確認項目になるのは、次の点です。
- 開催日と公表日が違うこと(今回は2か月あります)
- 行政の行動が「対話」「要請」「命令」「処分」のどれか
- 改正・公布・施行・適用開始のどの段階か
- 対象が事業者だけなのか、利用者の手続きまで及ぶのか。及ぶ場合、どの場面に限られるのか
要請と制度的対応の違いについては金融庁の暗号資産11項目要請とは?出庫制限と税制改正の現在地【2026年8月】でも整理しています。
マネロン対策とFATFの動き
資料の後半は、事業者向けの実務が中心です。利用者に関係しうる部分だけ挙げます。
- FATF声明(2026年2月13日付) — 資料によると、北朝鮮とイランが対抗措置の適用を要請される国・地域、ミャンマーが厳格な顧客管理措置の適用を要請される国・地域とされています。イランについては今回から、金融機関および暗号資産サービスプロバイダーの支店等の設置拒否、イランに所在する者との暗号資産取引を含む金融取引のリスクに応じた制限などが追加されました
- FATF 2026年6月プレナリー会合 — 資料によると、「DeFiに係る規制上の課題に関する報告書」が採択されました。2026-28年のワークプログラムの注力分野には「暗号資産に関する勧告15の更なる実施促進」と「詐欺対策」が含まれている、と書かれています
資料に書かれていないこと
- 販売所の具体的なスプレッドの水準・手数料率 — 記載がありません
- 「誘導している」とされた事業者名 — 社名は出てきません
- UIをどう直すのか、いつまでに直すのか — 記載がありません。書かれているのは「よく対話していきたい」までです
- 「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」の報告書の公表日 — 資料には報告書の名称だけが出てきます
- TLPT実証事業に協力する事業者名・実施時期 — 記載がありません
- 改正金融商品取引法の施行日 — この資料には書かれていません
現時点で未確定の事項
- 販売所と取引所の導線について、自主規制規則や監督指針に何らかの形で反映されるのか
- 反映される場合の時期と、利用者の画面に現れる変化
- 犯収法施行規則の改正(2027年4月1日施行)にあたり、対面での本人確認の運用を各社がどう変えるか
- 協会の各種委員会の立ち上げ状況と、そこで決まる自主規制規則の内容
この記事のまとめ
- 金融庁は2026年9月17日、2026年7月15日に開かれたJVCEAとの意見交換会で提起した論点を公表しました
- 利用者保護の項目で、「取引所」よりも収益性の高い「販売所」での取引を誘導しているのではないかという懸念に言及しています。社名は挙げられていません
- 根拠として挙げられているのは、2024年11月施行の金融サービス提供法改正で全金融事業者等に導入された「顧客等の最善の利益を勘案しつつ、誠実かつ公正に業務を遂行する義務」です
- 金融庁が書いているのは、「販売所」「取引所」のUIにおける導線を含め、何が顧客本位かを協会と「よく対話していきたい」というところまでです。規制やUIの変更が決まったとは書かれていません
- 協会には、理事の在り方の整理・自主規制機能の強化・サイバーセキュリティ強化・利用者のリテラシー向上の4点が求められました
- 利用者の手続きが変わると明記されているのは、犯収法施行規則の改正(2026年3月6日改正・2027年4月1日施行)による対面の本人確認です。ICチップ付きの書類に限定され、ICチップの読み取りが必須になります
あわせて読みたい
- 金融庁が2026事務年度の金融行政方針を公表|口座開設の直後に暗号資産をアンホステッド・ウォレットへ移せない「熟慮期間」の制度的対応を進めると明記【2026年9月】
- スプレッド・手数料とは?取引コストを初心者向けに解説【2026年版】
- 金融庁の暗号資産11項目要請とは?出庫制限と税制改正の現在地【2026年8月】
確認日: 2026年9月18日。本記事は金融庁の公表資料の記載を整理したものであり、個別の税務相談に応じるものではありません。具体的な申告・納税の取扱いは税理士または所轄の税務署にご確認ください。暗号資産の取引には価格変動をはじめとする各種のリスクがあり、損失が生じる可能性があります。
まずは、投資の基礎を無料で学ぶ
AGITOアプリで、解説記事・用語集・市場情報を確認できます。学習コンテンツと市場情報は無料です。
記事の内容に誤りを見つけた場合は、info@agito-investor.com までお知らせください。確認のうえ訂正します。










コメント