証券口座は、開くのは簡単で、移すのは難しい。そう感じたことはありませんか。気のせいではありません。
口座開設キャンペーンで利用者を増やしてきたネット証券のひとつ、moomoo証券が、NISAで買えないはずの商品を「NISA対象」と表示して売り、国内株を他社へ移す申請を一律に受け付けていなかったことで、証券取引等監視委員会の勧告を起点に、財務局・取引所・業界団体の3つの機関から続けて処分を受けました。2026年9月16日には日本証券業協会が過怠金5,000万円を科し、3か月間止まっていた新規の口座開設は9月24日に再開されます。
この記事は、公表された資料を時系列に並べ、moomoo証券に口座がある人・NISA口座を持っている人が、自分の口座のどこを見ればよいかを整理したものです。制度・事実の整理であり、特定の証券会社の利用や乗り換えをすすめるものではありません。
この記事で分かること
- 2026年6月から9月まで、監視委員会の勧告に続いて3つの機関が同じ事案にどんな処分を出したか
- NISAで「対象外」とされる商品は何か。77銘柄・59人に何が起きたか
- 国内株と投資信託の「出庫」が受け付けられていなかった期間と、いま再開しているもの
- 新規口座開設が止まっていた3か月と、9月24日の再開
- moomoo証券に口座がある人が確認できる項目
- この件が示していること
何が起きたか(2026年6月〜9月の時系列)
処分の起点は、証券取引等監視委員会(SESC)の検査です。検査基準日は2025年8月25日でした。
| 日付 | 出した機関 | 内容 |
|---|---|---|
| 2026年6月5日 | 証券取引等監視委員会 | 検査の結果をもとに、内閣総理大臣・金融庁長官へ行政処分を行うよう勧告 |
| 2026年6月19日 | 関東財務局長 | 業務停止命令と業務改善命令。6月19日から9月18日まで、新規の口座開設に係る勧誘・受付業務を停止。改善状況は7月21日までに書面で報告、その後は四半期ごとに報告(金融庁の報道発表) |
| 2026年7月21日 | moomoo証券 | 業務改善報告書を提出。改善策の概要を公表 |
| 2026年8月26日 | 東京証券取引所・大阪取引所 | 戒告処分。業務改善報告書の提出を求める |
| 2026年9月16日 | 日本証券業協会 | 過怠金5,000万円の賦課と勧告(PDF) |
| 2026年9月18日 | moomoo証券 | 停止命令の期間が満了。9月24日から新規口座開設の申込受付を再開すると公表 |
同社は9月16日のお知らせで、次のように書いています。
これらはいずれも同一事案に対する処分であり、今般の本協会処分は、上記の行政処分および取引所処分に加えて新たに発覚した問題に基づくものではありません。
つまり、新しい不祥事が何度もあったのではなく、ひとつの検査で見つかった問題について、監視委員会が勧告し、権限の異なる3つの機関がそれぞれの処分を出した、という構図です。監視委員会は「勧告」(処分そのものではなく、行政処分を行うよう求めるもの)、財務局は「命令」、取引所は「戒告」、業界団体は「過怠金」。同じ事実に、名前の違う4つの結果がついています。
なお日本証券業協会は同じ9月16日、別の会社(キャピタル・パートナーズ証券)にも過怠金3,000万円の処分を出しています。こちらはトルコ・リラ建て債券の勧誘で「確実に上がっていく」といった断定的な説明をしていた事案で、moomoo証券の件とは無関係です(同日のPDF)。
問題1:NISA対象外の商品を「NISA対象」と表示していた
NISAで買えない商品とは
NISAの成長投資枠で買える商品は、租税特別措置法などで決まっています。関東財務局の資料は、次の2つを挙げています。
- 上場投資信託(ETF)は対象。一方で、償還価額が特定の指標に連動する外国社債券である上場指標連動証券(ETN)は対象外
- 毎月分配型の投資信託や、ヘッジ目的等以外のデリバティブ取引を利用している投資信託等は、除外要件に該当
見た目が似ていても、ETFとETNは法律上の分類が違います。ETNは「債券」です。
77銘柄・59人
moomoo証券では、NISAの対象商品をシステムに登録する担当部署がこの除外要件を正確に認識しておらず、社内規程にも定めがありませんでした。その結果、2025年2月21日から5月27日までの間、少なくとも米国ETF・米国ETNの計77銘柄が、除外要件に該当するにもかかわらず、注文画面で「NISAの対象商品」と表示されて販売されました。59人の顧客が、このうち25銘柄をNISA口座で売買しています。
同社は顧客からの問い合わせでこれを把握し、5月27日に販売を停止しました。ところが、規程の見直しやチェック体制の構築といった改善策を作らなかったため、2025年11月19日から2026年1月14日にかけて、別の米国ETF 1銘柄で同じことが起き、1人が買い付けています。これは今回の検査で判明しました。
対象顧客への対応が「著しく杜撰」とされた点
日本証券業協会の資料は、59人への事後対応を「著しく杜撰」と表現しています。書かれている経過は次のとおりです。
- 2025年6月10日、対象顧客に「課税口座(特定口座または一般口座)への振替か、約定の取消かを選べる」と通知
- その後、自社システムの仕様で特定口座へは振り替えられないことが分かり、7月4日に「一般口座へのみ振替が可能」と再通知
- 複数の銘柄を持つ顧客には「振替か取消か、どちらか一方だけ」とし、銘柄ごとに違う処理を希望しても対応しない方針を決めた。ただしこの方針は、個別に問い合わせた一部の顧客を除いて周知されていない
- 2025年7月、要望を出した1人の年間投資枠だけを是正し、残る58人の年間投資枠は2025年12月まで是正されなかった
資料は、これらが「顧客の判断や税務申告に影響を及ぼす情報であるにもかかわらず」周知されていなかった点と、システムで対応できるかという基本的な確認を怠って最初の通知を出した点を問題としています。
問題2:国内株と投資信託の「出庫」を受け付けていなかった
出庫とは
「出庫」は、自分の証券口座にある株式や投資信託を、他社の自分名義の口座へ移すことです。逆は「入庫」。証券会社は証券保管振替機構(ほふり)の口座管理機関として、顧客から入出庫の申請があれば対応しなければならない、と機構の業務規程で定められています。
2024年4月から
関東財務局の資料によると、moomoo証券は次の状態でした。
- 2024年4月以降、国内上場株式の出庫申請を一律に受け付けていない(株式公開買付が行われる場合を除く)
- 2024年9月以降、公募投資信託の入出庫申請を一律に受け付けていない(自社と他社の両方で取り扱っており対応可能な商品であるにもかかわらず)
- 遅くとも2024年4月以降、自社サイトに「国内上場株式の出庫が可能となるよう対応する予定」と表示していたが、検査基準日の時点でシステム開発計画も予算措置も何も行っていなかった
資料は、同社が「顧客からの入出庫の申請に基づく対応はあくまでサービスの一環にすぎず、申請に応じないことも許容されると誤認」していた、と書いています。これが金融商品取引法第43条の善管注意義務違反と判断されました。
米国株の出庫については、処分の資料に記載がありません。
いま再開しているもの(同社の7月21日公表)
同社が7月21日に公表した改善策には、出庫の再開時期が書かれています。
- 2026年6月19日から、個人顧客向けの日本株式・米国株式の出庫対応を開始
- 2026年7月21日から、個人顧客向けの投資信託の出庫対応を開始
- 個人向け投資信託の入庫と、法人顧客向けの日本株・米国株の出入庫は、8月末を目途に順次対応予定
問題3・4:疑わしい取引の届出と、システムリスク管理
資料にはあと2つの問題が載っています。読者の口座に直接関わる話ではないため、要点だけ書きます。
- 口座開設を断った顧客について、疑わしい取引の届出を検討していなかった。2023年9月から2025年7月17日までの間、口座開設を謝絶等した少なくとも延べ1,531人について、犯罪収益移転防止法にもとづく「疑わしい取引」の該当性を検討・判断していなかった。取引関係が生じていないから検討不要、と誤って認識していたとされています。同社は7月21日、対象取引を全件再審査し、届出が必要と判断したものは2026年1月末に届出を完了した、と公表しています
- サイバーセキュリティを含むシステムリスク管理態勢が不十分。基幹システムの一部が情報資産台帳に載っていない、課題の進捗管理が一元化されていない、などが挙げられています
新規口座開設は9月24日に再開
関東財務局の業務停止命令は「2026年6月19日から同年9月18日までの間、新規の口座開設に係る勧誘及び受付業務の停止」でした。同社は9月18日、期間の満了を受けて9月24日から新規口座開設の申込受付を再開すると公表しました。既存顧客による信用取引口座・デリバティブ口座の追加開設の申込受付も同日から再開します。
同社はこの間、9月16日の告知で「本協会処分による当社の財務健全性への影響はなく、お客さまの資産およびお取引に直接の影響が及ぶことはございません」、6月5日の告知で「お客様の注文執行、プラットフォームの安定稼働及びお預かり資産の安全性に関わる当社の業務運営につきましては、引き続き通常どおり行われます」と書いています。
moomoo証券に口座がある人は、どこを見れば自分に関係があるか分かるか
処分の資料と同社の公表から、確認できる項目を並べます。いずれも事実の所在であり、何かをするよう求めるものではありません。
| 確認項目 | 見る場所 | 資料に書かれていること |
|---|---|---|
| 2025年2月21日〜5月27日、または2025年11月19日〜2026年1月14日に、NISA口座で米国ETF・ETNを買ったか | 取引履歴・NISA口座の約定一覧 | この期間に、除外要件に該当する銘柄が「NISA対象」と表示されていた。前の期間は少なくとも77銘柄・売買した顧客59人、後の期間は1銘柄・1人 |
| 対象だった場合、その銘柄がいまどの口座区分にあるか | 保有一覧の口座区分(NISA/特定/一般) | 同社の案内では、振替先は「一般口座のみ」だった。特定口座へは振り替えられていない |
| NISAの年間投資枠が戻っているか | NISA口座の利用状況(年間投資枠の残り) | 同社は「全対象顧客への原状回復・NISA年間投資枠の復活を一部完了し、引き続き対応中」(7月21日)。58人分の是正は2025年12月とされている |
| 一般口座に振り替えられた銘柄の売却益 | 確定申告の要否 | 資料は、振替先の変更を「顧客の判断や税務申告に影響を及ぼす情報」と書いている |
| 他社へ移したい国内株・投資信託があるか | 出庫の手続き画面 | 個人向けの日本株・米国株の出庫は6月19日から、投資信託の出庫は7月21日から受付を再開(同社公表) |
| 投資信託を他社から moomoo証券へ入庫したいか | 入庫の手続き画面 | 個人向け投信の入庫は「8月末を目途に順次対応予定」(7月21日時点) |
| 新しく口座を開こうとしていたか | 同社サイト・アプリ | 9月24日から申込受付を再開 |
NISAで買える商品の一般的な条件は、金融庁のNISA特設サイトに載っています。証券会社の登録状況は金融庁の免許・登録業者一覧で調べられます。
この件が示していること
「NISA対象」の表示は、証券会社が付けている
NISAで買える・買えないは法律で決まっていますが、moomoo証券では、注文画面の「NISA対象」という表示は、担当部署が自社のシステムに登録して付けていたものでした。今回の件は、その登録を担当する部署が除外要件を正確に認識していなかったことから起きました。制度が同じでも、表示の正しさは会社ごとに違いうる、ということをこの事案は示しています。
「開ける」と「移せる」は別のこと
同社はネット取引の開始以降、株式の買付代金の贈呈などの口座開設キャンペーンで新規口座を増やしてきた、と関東財務局の資料は記しています。一方で、2024年4月から国内株の出庫を一律に受け付けず、サイトには「対応予定」と表示したまま、システム開発の計画も予算もありませんでした。資料は、経営陣が「新規の口座開設の獲得等に向けた取組みに注力するなど、営業施策を優先」していたと書いています。
口座を開く入口は広く、資産を持って出る出口は閉じていた。この事案の構造は、その一言に集約されます。
事後対応が、最初の誤りより重く見られた
日本証券業協会の資料が「著しく杜撰」という言葉を使ったのは、77銘柄の誤表示そのものではなく、その後の59人への対応についてです。システムでできないことを確認せずに通知を出し、方針を決めても周知せず、要望を出した1人だけを先に是正して他の58人を半年放置した。同じ事案で処分が4つ重なった背景には、この事後対応があります。
3か月の停止が終わっても、報告は続く
業務停止命令は9月18日で終わりましたが、業務改善命令の報告義務は終わっていません。関東財務局は、改善の進捗を四半期末経過後15日以内(初回は2026年9月末基準)に、すべてが終了するまで書面で報告するよう求めています。日本証券業協会の勧告も「実施状況を報告すること」を含みます。次の節目は10月中旬の報告です。
自分の口座で「NISA対象」と出ている商品。その表示は、誰がどう確かめたものでしょうか。
現時点で未確定の事項
- 58人の年間投資枠の是正が、2025年12月ですべて完了したのかどうか。同社の7月21日公表は「一部完了し、引き続き対応中」
- 誤表示された77銘柄・1銘柄の具体名。処分の資料には載っていない
- 個人向け投資信託の入庫、法人向けの出入庫が、予定どおり8月末に再開したかどうか(同社の続報は2026年9月21日時点で確認できていない)
- 東京証券取引所・大阪取引所へ提出する業務改善報告書の内容と提出日
- 関東財務局への四半期報告(初回 2026年9月末基準)の内容が公表されるかどうか
出典・確認日
- 日本証券業協会「協会員に対する処分及び勧告について」2026年9月16日(moomoo証券株式会社・PDF)
- 日本証券業協会「協会員に対する処分及び勧告について」2026年9月16日(キャピタル・パートナーズ証券株式会社・PDF)
- 関東財務局「moomoo証券株式会社に対する行政処分について」2026年6月19日
- 金融庁「moomoo証券株式会社に対する行政処分について」2026年6月19日
- 証券取引等監視委員会「moomoo証券株式会社に対する検査結果に基づく勧告について」2026年6月5日
- moomoo証券 重要なお知らせ「金融庁による行政処分について」2026年6月19日/「行政処分に基づく業務改善報告書の提出について」2026年7月21日/「東京証券取引所及び大阪取引所による処分について」2026年8月26日/「日本証券業協会による処分について」2026年9月16日/「新規口座開設受付等の順次再開について」2026年9月18日
確認日: 2026年9月21日
この記事のまとめ
- moomoo証券は、2026年6月5日の証券取引等監視委員会の勧告に始まり、6月19日の関東財務局(新規口座開設の勧誘・受付を3か月停止+業務改善命令)、8月26日の東証・大阪取引所(戒告)、9月16日の日本証券業協会(過怠金5,000万円)と、同一事案で勧告1件と処分3件を受けました
- 問題の中心は2つ。NISAで買えない米国ETF・ETN 計77銘柄を「NISA対象」と表示して販売し、59人がNISA口座で売買したこと。そして2024年4月から国内株の出庫を、2024年9月から投資信託の入出庫を、一律に受け付けていなかったことです
- 誤表示の後、対象顧客への対応は「著しく杜撰」とされました。特定口座へは振り替えられず一般口座のみ、方針は周知されず、58人の年間投資枠は2025年12月まで是正されませんでした
- 出庫は、個人向けの日本株・米国株が6月19日から、投資信託が7月21日から受付を再開しています(同社公表)
- 新規口座開設の申込受付は9月24日に再開されます。業務改善の報告義務はその後も続きます
- 対象期間にNISA口座で米国ETF・ETNを買った人は、保有銘柄の口座区分と年間投資枠の残りが確認項目になります
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※本記事は公表された資料・発表の内容を整理した一般的な情報提供であり、特定の個人・団体・商品・サービスの利用や解約を勧めるものではありません。投資の最終判断はご自身の責任で行ってください。元本保証はなく、損失が生じる可能性があります。税務の取扱いについては税理士に、法律上の論点については弁護士にご確認ください。
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