「国税庁のAIが仮想通貨の申告漏れを見つける」。この数日、そんな話を目にしませんでしたか。半分は国税庁の資料で確かめられ、半分は確かめられません。
国税庁は2026年9月24日、税金を管理する基幹システムを新しくしました。税の種類ごとにバラバラだったデータを1か所にまとめる仕組みです。一方で、AIで「申告漏れの可能性が高い人」を判定する仕組みは、今回始まったものではありません。すでに全国の税務署で使われていて、新システムでデータが増える分、精度を上げていくと国税庁は書いています。
この記事は、国税庁が公表している資料だけを使って、何が変わったのか、何が変わっていないのか、暗号資産の取引をしている人にとってどこが関係するのかを整理したものです。
この記事で分かること
- 9月24日に更改された国税システム(KSK2)は何か
- 国税庁のAIは何をしていて、最終的に誰が判断しているか
- 報道で広まった話のうち、国税庁の資料で確かめられないもの
- 暗号資産の取引をしている人への実地調査の件数と金額
- 自分に関係があるかを確認できる項目
何が起きたか:9月24日に国税システムを更改
国税庁は「国税システムの更改について」で、「令和8年9月24日に国税システムを更改しました」と公表しています。
新しいシステムの呼び名は、国税庁のe-Taxの案内に出てきます。国税システムの更改に伴う仕様書を「KSK2対応版」と記載しています。次に紹介する国税庁の「税務行政の将来像2023」の構成図では、それまでの「KSKシステム」と並べて「次世代システム」と書かれています。
KSK2は何を変えるシステムか
国税庁が2023年6月に公表した「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション -税務行政の将来像2023-」(PDF)は、基幹システムを次の3つの考え方で刷新すると書いています。
- 書面中心からデータ中心の事務処理へ(紙からデータ)
- 税目別・事務系統別のデータベースとアプリケーションを統合する(縦割りシステムの解消)
- 独自の大型コンピュータ(メインフレーム)から、オープンなシステムへ移す
これまでは、所得税・法人税・消費税といった税目ごとにシステムが分かれていました。それを1つのデータベースにまとめる、というのが柱です。
納税者から見て変わったこと
国税庁の案内ページに載っている、納税者に関係する変更は次のとおりです(2026年9月29日時点の掲載分)。
| 変わったこと | 中身 |
|---|---|
| 申告書などの様式 | 一部の書面の申告書・申請書・法定調書の様式が新しくなった。申告書の控用はなくなり、配色は原則白黒 |
| 税務署からの通知 | 通知を特定する「お問い合わせ番号」(13桁)が印字される |
| 納付書 | 「整理番号」欄(8桁)が「お問い合わせ番号」欄(13桁)に変わった |
| e-Tax | IPアドレスが固定から動的に変わった。国税庁の案内は、IPアドレスを指定して接続している場合にURLでの接続への変更を求めている |
| 処分通知等の電子交付 | 対象が拡大。同意の方法が原則「申請等の都度」から「事前の一括同意」に変わった |
| 開示される申告書等 | 申告書等閲覧サービスや開示請求等では、申告書等のヘッダーに提出年月日が印字される |
| 漢字の扱い | 税務署から送る文書や納税証明書等で使う漢字・記号が、JISの第1水準から第4水準まで(JIS X 0213で定義された文字)になった。一部の字形が置き換わる場合がある |
税率や、暗号資産の所得の計算方法が変わったわけではありません。
国税庁のAIは何をしているか
国税庁は2026年7月に「国税庁におけるAIの活用」(PDF)を公表しています(掲載ページ)。課税の分野について書かれていることを、そのまま並べます。
- 保有する膨大なデータを予測AIで分析し、税目ごとに申告漏れのリスクを判定してスコア化する予測モデルを作っている
- 使うデータとして、申告・決算情報・法定調書・資料情報・調査事績が図に挙がっている
- 予測モデルの判定結果に加えて、申告書や資料情報を分析し、調査の要否や優先度は職員が最終的に判断する
- 判定結果は、全国すべての国税局・税務署で活用している
- 計算誤りなどが想定される場合は、文書照会などで幅広く接触する
- 所得税の不正還付のリスク判定や、法人の不正のパターン判定など、ほかの予測モデルも使っている
そのうえで、今回の更改との関係を次のように書いています。
令和8年9月の国税システムの更改において、従来書面で管理していた情報のデータ化などによりデータで管理する情報が増加することを踏まえ、構築してきた予測モデルの精度を向上させるなど、AI・データ活用による事務の更なる高度化を図っていきます。
つまり順番は、AIはすでに使われている → 新システムでデータとして扱える情報が増える → それを使って精度を上げていく、です。「新システムの稼働と同時にAIの監視が始まった」という形ではありません。
報道で広まった話のうち、国税庁の資料で確かめられないもの
今回の件は、報道やSNSで「AIが仮想通貨を狙い撃ちする」といった形で広まっています。国税庁が公表している上の資料と突き合わせると、次の点は資料に記載がありません。
| 広まっている話 | 国税庁の資料で確認できたこと |
|---|---|
| 暗号資産の年間取引報告書が、AIの照合対象になった | 資料に記載なし。年間取引報告書は、国税庁の案内では「暗号資産交換業者から送付される」書類で、所得を計算するときに使うものとして説明されている |
| SNSの投稿と申告データが突き合わされる | 資料に記載なし。将来像2023の構成図には、統合データベースへ「外部データ・インターネット」を取り込む矢印が描かれているが、SNSの投稿を申告と照合するという記述はない |
| 新システムでAIによる検知が始まった | AIの予測モデルは更改の前から全国で使われている。更改で変わるのは、データとして扱える情報が増えること |
| マイナンバーを軸に個人と法人のデータが一元化された | 今回確認した資料の範囲では、統合の説明は「税目別・事務系統別のデータベースの統合」まで |
確かめられないことは、否定されたという意味ではありません。国税庁が公表していない、という意味です。
暗号資産の取引をしている人への調査(令和6事務年度)
一方で、暗号資産の取引が調査の重点のひとつになっていることは、国税庁自身が数字で公表しています。「令和6事務年度における所得税及び消費税調査等の状況」(2025年12月公表。事務年度は2024年7月〜2025年6月)です。
| 項目 | 令和5事務年度 | 令和6事務年度 |
|---|---|---|
| 実地調査(特別・一般)の件数 | 535件 | 613件 |
| 1件当たりの申告漏れ所得金額 | 2,356万円 | 2,538万円 |
| 申告漏れ所得金額の総額 | 126億円 | 156億円 |
| 追徴税額の総額 | 35億円 | 46億円 |
1件当たりの追徴税額は745万円で、所得税の実地調査(特別・一般)全体の299万円の2.5倍です。国税庁は同じ資料で、暗号資産等の取引を行っている個人に対しては「資料情報の収集・分析に努め、積極的に調査を実施しています」と書いています。
この数字は、KSK2の稼働より前の期間のものです。また国税庁はAI活用の資料で、調査対象の全てが予測モデルを活用した事案ではない、と注記しています。
自分に関係があるか:暗号資産の取引をしている人の確認項目
暗号資産の利益について、国税庁は「暗号資産等に関する税務上の取扱い及び計算書について」で、事業所得等の各種所得の基因となる行為に付随して生じる場合を除き、原則として雑所得に区分され所得税の確定申告が必要、と案内しています。
今回の更改を受けて確認項目になるのは、次のあたりです。いずれも一般的な確認の観点を並べたもので、特定の対応を求めるものではありません。
| 確認項目 | 見る場所 | 資料に書かれていること |
|---|---|---|
| その年に暗号資産を売った・使った・別の暗号資産と交換したか | 取引所の取引履歴 | 売却・使用で生じた利益は原則雑所得(国税庁) |
| 年間取引報告書が手元にあるか | 取引所のマイページ | 国税庁は、年間取引報告書を利用して計算する場合には「総平均法用」の計算書を使うよう案内している |
| 複数の取引所やウォレットを使っているか | 各取引所の報告書・ウォレットの履歴 | 国税庁の案内では、年間取引報告書は各暗号資産交換業者から送付される書類 |
| 書面で申告書を出していたか | 手元の申告書 | 様式変更で申告書の控用はなくなった |
| 税務署から届いた通知の番号 | 通知・納付書 | 13桁の「お問い合わせ番号」が印字される |
| 処分通知を電子で受け取っていたか | e-Tax | 電子交付は「事前の一括同意」が必要になった。これまで電子交付を使っていた人も含む |
個別の申告の要否や計算方法は、税理士または所轄の税務署で確認できます。
この件が示していること
税務当局に届く暗号資産の情報は、段階的に増えている
今回の更改は、単独で見ると「国のシステムが新しくなった」という話です。ただ、当サイトでこれまで扱った制度と並べると、同じ方向の変化が重なっていることが分かります。
| 時期 | 出来事 | 当サイトの記事 |
|---|---|---|
| 2026年1月1日 | 国内の暗号資産交換業者等と取引する人が、居住地国等を記載した届出書を交換業者等へ提出する制度が始まった(CARF) | 居住地国の届出書 |
| 2026年3月31日 | 暗号資産の申告分離課税を導入する法改正が成立・公布。交換業者が税務署長へ取引報告書を出す義務も含む | 11項目要請と税制改正の現在地 |
| 2026年9月24日 | 国税システムの更改(KSK2) | この記事 |
| 2027年以後、毎年4月30日まで | CARFにもとづき、交換業者等が居住地国が外国の人の情報を税務署長へ報告 | 居住地国の届出書 |
| 2028年1月1日(政府答弁での想定) | 申告分離課税の適用開始 | 11項目要請と税制改正の現在地 |
| 税制適用年の翌年1月1日以後の行為から | 交換業者の取引報告書の提出義務の適用(税制が2028年1月からなら、原則2029年1月1日以後の行為) | 11項目要請と税制改正の現在地 |
情報が届く経路(届出・報告)と、届いた情報を扱う側(システム・AI)の両方が、数年がかりで順に整っていく並びです。どれも一度に切り替わったものではありません。
「AIが見ている」より先に決まっているのは、申告の義務そのもの
AIの有無にかかわらず、暗号資産の利益が原則として確定申告の対象であることは、更改の前後で変わっていません。国税庁の資料が示しているのは、AIが調査先を決めるのではなく、AIの判定を材料に職員が決めるという構造です。「AIに見つかるかどうか」と「申告が必要かどうか」は、別の問いです。
去年の年間取引報告書、どこに保存しましたか。
現時点で未確定の事項
- 予測モデルの精度向上が、いつ・どの税目から反映されるか(国税庁の資料は「図っていきます」という表現)
- 年間取引報告書や外部の情報が、予測モデルの入力にどこまで使われるか(国税庁の資料に個別の記載なし)
- 交換業者から税務署長への取引報告書の提出義務の具体的な開始日(改正金融商品取引法の施行日に連動し、2026年9月29日時点で未定)
出典・確認日
- 国税庁「国税システムの更改について」
- 国税庁 e-Tax「国税システムの更改に伴うe-Taxの仕様公開と送信試験」
- 国税庁「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション -税務行政の将来像2023-」(令和5年6月23日)
- 国税庁「国税庁におけるAIの活用」(令和8年7月)
- 国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月)
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱い及び計算書について(令和7年12月)」
確認日: 2026年9月29日。本記事は国税庁の公表資料の記載を整理したものであり、個別の税務相談に応じるものではありません。具体的な申告・納税の取扱いは税理士または所轄の税務署にご確認ください。
この記事のまとめ
- 国税庁は2026年9月24日に国税システムを更改しました。e-Taxの仕様書では「KSK2対応版」と呼ばれています。柱は、紙からデータへ、税目ごとに分かれていたデータベースの統合、メインフレームからの移行の3つです
- 納税者に見える変更は、申告書の様式(控用の廃止・原則白黒)、通知の13桁の「お問い合わせ番号」、納付書の様式、e-Taxの接続、電子交付の「事前の一括同意」などです
- AIで申告漏れのリスクを判定する予測モデルは、更改の前から全国の税務署で使われています。調査の要否は職員が最終判断します。国税庁は、更改でデータとして扱える情報が増えることを踏まえて精度を上げていくと書いています
- 「年間取引報告書がAIの照合対象」「SNSの投稿と突き合わせ」は、国税庁の公表資料には記載がありません
- 暗号資産の取引をしている人への実地調査は令和6事務年度に613件、1件当たりの追徴税額は745万円で、所得税の実地調査全体の2.5倍です
- 暗号資産の利益は、更改の前後を問わず原則として雑所得で確定申告の対象です
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