金融庁が、金融行政の重点課題をまとめた「2026事務年度金融行政方針」を公表しました。暗号資産に関する記載が複数あります。
なかでも利用者に直接かかわるのが、口座を開設した直後に、暗号資産をアンホステッド・ウォレットへ移せない「熟慮期間」を設けるという部分です。方針は、この措置について「制度的対応を滞りなく進める」と書いています。制度ができた、あるいは内容が決まった、とは書かれていません。
8月に金融庁と警察庁が業界団体へ出した要請には、この起点の項目は入っていません。方針は、要請に沿った対策の実施状況を確認したうえで、「加えて」この措置の制度的対応を進めると書いています。
もうひとつが、暗号資産取引も金融商品取引法の規制対象とする等の見直しがなされた改正法です。すでに成立しており、方針には「施行に向けた監督指針等の整備」と「法執行のための準備」を進めると書かれています。
この記事で分かること
- 方針に書かれている暗号資産関連の記載(原文のまま)
- 「口座開設直後の熟慮期間」が8月の要請とどう違うか
- 暗号資産取引が金融商品取引法の規制対象になると何が変わるか
- 無登録の海外取引所について何が書かれているか
- 方針に書かれていないこと(時期・期間・税制)
本記事は金融庁の公表資料の記載を整理したものであり、特定の投資判断や資産の移動を推奨するものではありません。
何が公表されたのか
金融庁は2026年9月15日、2026事務年度金融行政方針についてを公表しました。金融行政の重点課題と、行政に取り組むうえでの方針をまとめたものです。本体は2026事務年度 金融行政方針(PDF・全20ページ)で、構成は次の3章です。
- 金融機能の更なる発揮を促し、持続的な成長に貢献する
- 金融システムの安定や市場の公正性・透明性を確保する
- 国民への貢献のために常に進化し続ける組織をつくる
暗号資産に関する記載は、主に2章の「金融機関のガバナンスの確保・リスク管理の実効性向上」「金融犯罪や自然災害への対応と利用者のための環境整備」「資本市場の公正性・透明性の確保」の3か所に出てきます。1章には「オンチェーン金融」の項目があります。
なお、この方針は、政府が2026年7月に策定した「成長投資を促進するための金融戦略」との記載の重複を避け、補完が必要な項目を中心に作られたものだと注記されています。金融戦略の本体は内閣官房の資料として別添になっています。
口座を作った直後に暗号資産を送れない期間ができる?
方針の「金融犯罪や自然災害への対応と利用者のための環境整備」に、次の記載があります。
詐欺等の被害金の交付に暗号資産が用いられるなど、金融犯罪の手口が巧妙化していることを踏まえ、2026年8月、暗号資産交換業者に対し、対策の強化を要請した。引き続き、暗号資産交換業者において要請に沿った対策が講じられているかを確認する。加えて、利用者が新規口座開設直後に暗号資産をアンホステッド・ウォレットへ移転できないよう一定の熟慮期間を設ける等の措置について制度的対応を滞りなく進めるなど、被害の拡大防止に取り組む。
方針は「アンホステッド・ウォレット」という語を、説明を付けずに使っています。方針が対象として挙げているのは、新規口座開設の直後に、暗号資産をアンホステッド・ウォレットへ移転することです。
ここで押さえておく点が2つあります。
1つ目は、8月の要請とは別の項目だということ。
金融庁は2026年8月6日、警察庁と連名で、一般社団法人日本暗号資産等取引業協会に対して暗号資産を用いた詐欺被害等防止に向けた対策の一層の強化についてを要請しました。この11項目に含まれているのは、次の2つです。
- 法定通貨入金後又は暗号資産購入後の一定期間の暗号資産の出庫制限
- 出庫先の事前登録制及び登録後一定期間の暗号資産の出庫制限
いずれも「入金・購入の後」または「出庫先の登録の後」を起点にしています。今回の方針に書かれた「新規口座開設直後」を起点とする熟慮期間は、11項目には入っていません。要請の全体像は金融庁の暗号資産11項目要請とは?出庫制限と税制改正の現在地【2026年8月】で扱っています。
2つ目は、「要請」ではなく「制度的対応」と書かれていること。
11項目は、金融庁と警察庁が協会に対して出した要請です。交換業者が出した告知については、当サイトの関連記事で個別に扱っています。
今回の方針は、熟慮期間について「制度的対応を滞りなく進める」と書いています。制度的対応が済んだとは書かれていません。どの法令でどう手当てするのか、対象となる事業者、すでに口座がある人への適用、開始時期、期間の長さは、いずれも方針に書かれていません。
暗号資産取引が金融商品取引法の規制対象になるのはいつから?
方針の「資本市場の公正性・透明性の確保」には、証券取引等監視委員会の取組みとして次の記載があります。
あわせて、暗号資産取引も金融商品取引法の規制対象とする等の見直しがなされたところ、法執行のための所要の準備を着実に進める。
ここで言う見直しは、金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律(令和8年4月10日提出・令和8年7月15日成立)を指しています。方針の注記によると、この改正で措置されたのは次のものです。
- 暗号資産に係る不公正取引規制
- 情報公表規制
- 上記の違反に対する課徴金制度
- 証券取引等監視委員会の犯則調査権限の対象に無登録業を追加
- 監視委員会の申立てにより、裁判所が無登録の暗号資産交換業者等に緊急差止命令を出せるようにする
監督する側については、「暗号資産交換業者等については、安全な取引環境を整備する観点から、モニタリングや無登録業者への対応に取り組むとともに、改正金融商品取引法の施行に向けた監督指針等の整備や自主規制機関の機能強化を進める」と書かれています。自主規制機関の機能強化について方針が挙げているのは、業界全体のサイバーセキュリティの強化と、取扱暗号資産の審査および不公正取引監視の実効性向上です。
施行日は、この方針には書かれていません。成立と施行は別の段階で、方針の書きぶりも「施行に向けた」「準備を進める」です。改正法の位置づけについては金融庁の税制改正要望に暗号資産の課税項目はなし|信託型ステーブルコインの調書免除を要望【2026年9月】でも触れています。
無登録の海外取引所について何が書かれているか
「無登録業者への対応に取り組む」という文言は、暗号資産交換業者等の監督について書かれた本文にあります。これとは別に、証券取引等監視委員会の犯則調査権限の対象に「無登録業」が加わったこと、および無登録の暗号資産交換業者等に対する裁判所の緊急差止命令が、改正法の内容として注記に書かれています。
金融庁が公表している無登録業者の一覧は無登録で暗号資産交換業を行う者の名称等についてで、国内業者と海外所在業者に分かれています。海外所在業者の一覧には、IZAKA-YAを運営するとされるIzakaya Limitedが、掲載時期を令和8年9月として記載されています(当サイトの記事で扱っています)。
緊急差止命令は、改正法で措置された内容として方針の注記に挙げられているものです。方針の本文は「法執行のための所要の準備を着実に進める」とあるだけで、実際にどの業者に対して使われるかは書かれていません。
「オンチェーン金融」は何を指しているか
1章の「デジタル金融・金融インフラの高度化」で、方針はブロックチェーン技術を基盤とする「オンチェーン金融」の社会実装を促すとしています。挙げられている取組みは次のものです。
- 「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」の立ち上げ
- 「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」と「AI等の健全な利活用の推進に関する研究会」で、技術・制度・監督に関する論点を検討
- クロスボーダー送金の高度化に関するアジアとの官民政策対話の一環として、Japan Fintech Week(2027年2月〜3月開催)に合わせて「アジア・デー2027」を開催
- 「資産のトークン化の発展も見据え、証券決済の短縮化・高度化について、市場関係者と連携しながら検討を進める」
これらの記載には、利用者側の具体的な手続きが変わるとは書かれていません。
自分に関係があるかは、どこを見れば分かるか
方針は行政の重点課題をまとめたもので、利用者が具体的にいつ何をすることになるのかは書かれていません。方針の記載から、今後の確認項目になるのは次の点です。
- 新しく口座を開く場合 — 方針が挙げている熟慮期間は、要請にある出庫制限(入金後・購入後・出庫先の登録後)とは起点が違います。方針は、具体的な運用方法や周知の方法については書いていません
- すでに口座がある場合 — 方針には既存口座の扱いについての記載がありません
- 改正法の施行 — 施行日は、方針にも、金融庁の国会提出法律案のページ(提出日と成立日の記載のみ)にも書かれていません
- 海外の取引所を使っている場合 — 無登録業者の一覧は金融庁のページで確認できます。ただし同庁は「掲載されていない者であっても、無登録交換業に該当する行為を行っていることがあり得ます」と注記しています
この件が示していること
2026年の暗号資産まわりの動きを並べると、段階が分かれています。
| 時期 | 段階 | 内容 |
|---|---|---|
| 2026年7月15日 | 成立 | 暗号資産取引を金融商品取引法の規制対象とする改正法 |
| 2026年8月6日 | 要請 | 金融庁・警察庁が協会へ11項目(出庫制限を含む) |
| 2026年9月15日 | 方針 | 要請の実施状況を確認。加えて口座開設直後の熟慮期間について「制度的対応」 |
要請と、今回の制度的対応の方針では、起点が同じではありません。要請にあるのは「法定通貨入金後又は暗号資産購入後」と「出庫先の登録後」で、方針にあるのは「新規口座開設直後」です。
同種の記載を読むときに確認項目になるのは、次の点です。
- 「要請」なのか「制度的対応」なのか
- 成立・公布・施行・適用開始のどの段階を指しているか
- 起点が何か(入金・購入・アドレス登録・口座開設)
- 期間や対象が方針・告知に数値で書かれているか
方針に書かれていないこと
- 熟慮期間の長さ・開始時期・対象事業者・既存口座への適用 — いずれも記載がありません(対象となる行為は「新規口座開設直後のアンホステッド・ウォレットへの移転」と書かれています)
- 改正金融商品取引法の施行日 — 記載がありません
- 暗号資産の税制 — 本記事で確認した範囲では、本体PDFに「税制」の語は出てきません。税制改正要望については金融庁の税制改正要望に暗号資産の課税項目はなし|信託型ステーブルコインの調書免除を要望【2026年9月】で扱っています
- ステーブルコイン — 本体PDFに「ステーブルコイン」の語は出てきません。「はじめに」には「オンチェーンの決済手段」という表現があり、1章は「オンチェーン金融」と書いています
- 個別の交換業者名 — 方針に社名は出てきません
現時点で未確定の事項
- 熟慮期間の制度的対応が、どの法令・府令で行われるか
- 改正金融商品取引法の施行日と、それに伴う監督指針の内容。なお、改正法は複数の規定からなり、規定ごとに施行の時期が分かれる場合があります。本記事は方針と国会提出法律案のページの記載を確認したもので、規定ごとの施行時期までは確認していません
- 自主規制機関(日本暗号資産等取引業協会)の機能強化として、具体的に何が変わるか
- 「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」の構成員と検討の範囲
この記事のまとめ
- 金融庁は2026年9月15日、2026事務年度金融行政方針を公表しました
- 暗号資産では、利用者が新規口座開設の直後にアンホステッド・ウォレットへ移転できないよう一定の熟慮期間を設ける等の措置について、「制度的対応を滞りなく進める」と書かれています。対象事業者・既存口座への適用・開始時期・期間の記載はありません
- これは8月6日の要請11項目には含まれていない項目で、要請にある出庫制限とは起点が違います
- 暗号資産取引を金融商品取引法の規制対象とする改正法(2026年7月15日成立)について、施行に向けた監督指針等の整備と法執行のための準備を進めるとしています。施行日の記載はありません
- 改正法では、不公正取引規制・情報公表規制・課徴金制度に加え、無登録の暗号資産交換業者等への裁判所の緊急差止命令が措置されています
- 本体PDFに「税制」「ステーブルコイン」の語は出てきません
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確認日: 2026年9月16日。本記事は金融庁の公表資料の記載を整理したものであり、個別の税務相談に応じるものではありません。具体的な申告・納税の取扱いは税理士または所轄の税務署にご確認ください。暗号資産の取引には価格変動をはじめとする各種のリスクがあり、損失が生じる可能性があります。
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