金融庁と警察庁が2026年8月6日、国内すべての暗号資産交換業者を対象に、詐欺対策の強化を求める11項目を出しました。柱は入金直後の出庫制限と出庫先の事前登録制です。あわせて、暗号資産の税金を分離課税20.315%へ下げる法律はすでに成立していますが、適用は2028年1月ごろの見込みで、今年の扱いは変わりません。
要はこういうこと
11項目は、ざっくり言うと入金してすぐには出庫できなくする、送り先を先に登録させる、詐欺の疑いがある取引は確認・制限・凍結を速やかに行うという手続きの追加です。詐欺の被害者が言われるまま短時間で送金してしまうのを防ぐ狙いがあります。ただしどこまでやるかは各社の判断で、システム対応が難しいものは計画的な対応でよいとされています。
税金の話はよく混同されます。分離課税20.315%の法律は成立済み(現行は総合課税で、最も高い所得層の限界税率は復興特別所得税を含めて約55.9%)。ただし実際に適用されるのは2028年1月ごろの見込みで、2026年分の暗号資産の所得は、これまでどおり総合課税のままです。
この記事で分かること
- 要請された11項目
- 11項目が担う2つの機能
- 暗号資産の税制はいまどの段階か
- 取引情報の報告に関する制度
- 8月7日付の組織再編
- 利用者側に生じ得る手続きの変化
- 現時点で未確定の事項
制度情報の整理であり、特定の投資判断や資産の移動を推奨するものではありません。まず11項目の中身から見ていきます。
要請された11項目
2026年8月6日、金融庁が警察庁と連名で、一般社団法人日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)に対して「暗号資産を用いた詐欺被害等防止に向けた対策の一層の強化について」を発出しました。事業規模にかかわらず、すべての暗号資産交換業者が対象です。
公表資料に記載された項目は次のとおりです。
- 口座開設時における不正防止及び実態把握の強化
- 詐欺被害等防止のための確認及び注意喚起
- 法定通貨入金後又は暗号資産購入後の一定期間の暗号資産の出庫制限
- 出庫先の事前登録制及び登録後一定期間の暗号資産の出庫制限
- 出庫限度額の適切な設定
- 取引モニタリング及びアクセス環境モニタリングの強化
- 疑わしい取引検知後の顧客への確認、取引制限及び口座凍結等の措置の迅速化
- なりすまし等が疑われる場合の認証強化
- 送金依頼人名と暗号資産口座の名義人名の一致確認等
- 詐欺被害及び不正利用等に関する検知の端緒、実態の把握及び対策の高度化に資する情報の共有
- 警察への情報提供及び連携の強化
背景として、犯罪の手口が複雑化・巧妙化していること、特殊詐欺の被害金が暗号資産交換業者の口座宛てに入金される事例が発生していることが挙げられています。
システム対応が直ちに困難な項目については、計画的な対応が重要とされています。
なお今回の文書は業界団体に対する要請です。具体的な待機期間、限度額の水準、追加確認の手続きは各社の実装によって異なります。
11項目が担う2つの機能
11項目は、働くタイミングによって2つに整理できます。どちらが重要という関係ではなく、機能が異なります。
事前に手続きを挟むもの(項目1〜5、8、9)
口座開設時の確認、注意喚起、入金・購入後の出庫制限、出庫先の事前登録制、出庫限度額、認証強化、名義の一致確認。
被害が発生する前の段階で手続きを挟み、時間を確保する働きがあります。詐欺の被害者が指示されるまま短時間で暗号資産を移転してしまう事象に対して効きます。
ただし、この7項目が一律に全利用者へ同じようにかかるわけではありません。項目3は入金・購入の直後という時点で、項目4は詐欺との関連が確認された場合の新規登録先について、項目5は顧客のリスク評価に応じて、項目8はなりすましが疑われる場合に、それぞれ条件が置かれています。実際にどの利用者へどの範囲で適用するかは各社のリスク評価と実装によります。
検知した後に対応するもの(項目6、7、10、11)
取引モニタリング、疑わしい取引検知後の確認・取引制限・口座凍結、情報共有、警察への情報提供。
疑わしい取引を検知してから動き、被害の拡大を止めて資金の追跡につなげます。検知の精度に依存します。
暗号資産の税制はいまどの段階か
制度の現在地を、成立・公布・施行・適用開始に分けて整理します。
現行の扱い
個人が暗号資産の売却や使用によって得た利益は、事業所得等に該当する場合を除き、原則として雑所得として総合課税の対象です(国税庁)。
総合課税では所得水準に応じて所得税5〜45%と個人住民税約10%がかかり、合計の最高限界税率は55%です(復興特別所得税を除く)。これは最も高い所得階層に適用される限界税率であり、すべての人に55%がかかるわけではありません。
申告分離課税は成立済み・未適用
暗号資産の譲渡益等に申告分離課税(所得税15%・住民税5%)を導入する所得税法等の改正は、2026年3月31日に成立・公布されています(財務省)。
適用開始は改正金融商品取引法の施行年の翌年1月1日以後の譲渡からです。国会審議では、政府から「現時点では令和10年1月1日と考えている」旨の答弁がなされています(衆議院 予算委員会議録(第221回国会・第3号))。2026年8月時点の確定申告の扱いは変わっていません。
対象となる「特定暗号資産」の範囲
分離課税の対象は「特定暗号資産」を暗号資産取引業者に譲渡する場合などに限られます。
この範囲は、登録簿への記載だけで決まるわけではありません。法文の構成としては、登録簿に記載された暗号資産のうち財務省令で除外されるものを除き、それ以外でも財務省令で定められるものを含む形になっています。最終的な範囲は今後の財務省令によって確定します。
分離課税は、登録された暗号資産取引業者への売委託・譲渡などが基準です。したがって、国内登録の暗号資産取引業者を介さない海外取引所での取引、DEX(分散型取引所)、個人間取引は対象外として整理されています。
マイニングについては、報酬を取得した時点の所得と、取得した暗号資産をその後譲渡したときの損益は別の課税事象です。取得時の所得が総合課税であっても、その後の譲渡の扱いは譲渡の方法や対象資産の規定によって変わり得ます。
損失については3年間の繰越控除が導入されますが、上場株式等との損益通算はできません。
規制法上の位置付けの変更も未施行
暗号資産を資金決済法から金融商品取引法へ移す改正は、2026年7月15日に成立、7月23日に公布されています(金融庁)。暗号資産取引規制の主要部分は、公布から1年以内の政令で定める日に施行されます。現時点では未施行です。
この位置付けの変更が、分離課税導入の前提とされています。
取引情報の報告に関する制度
分離課税とあわせて、報告制度が整備されています。
暗号資産取引業者による取引報告書
今回の税法改正には、暗号資産取引業者が税務署長へ取引報告書を提出する義務が含まれます。本人情報と取引情報が報告され、申告内容との照合材料になります。
適用時期は段階が分かれます。改正金商法等の施行があり、その施行年の翌年1月1日から暗号資産税制が適用され、報告書関係はさらにその税制適用年の翌年1月1日以後の行為から適用される構成です。税制の適用が2028年1月からであれば、報告の対象となる行為は原則2029年1月1日以後になります。
CARF(暗号資産等報告枠組み)
CARFはOECDが策定した国際的な枠組みで、日本では2026年から居住地国の届出が始まっています(国税庁)。
国内の報告暗号資産交換業者等が、主として非居住者等の取引情報を日本の税務当局へ報告し、税務当局間で相手国の税務当局へ情報交換する仕組みです。個々の取引が国境を越えたかどうかで対象が決まる制度ではありません。
取引報告書とCARFは、それぞれ別の目的と対象を持つ制度として並行して整備されています。
8月7日付の組織再編
2026年8月7日付で、金融庁の組織再編が施行されました(金融庁)。同日現在の幹部名簿にも再編後の組織が反映されています。
暗号資産とステーブルコインを扱う事業者の監督を担当する「暗号資産・ステーブルコイン課」が、資産運用・保険監督局の下に置かれました。前身は総合政策局リスク分析総括課の「暗号資産・ブロックチェーン・イノベーション参事官室」です。
事実関係として、次の点があります。
- 新設は暗号資産分野に限りません。国際課・信用課・郵政金融課・資金決済課を含む5課が同時に設置されました
- 総合政策局と監督局を「銀行・証券監督局」「資産運用・保険監督局」へ再編する大規模改編の一部です
- 金融庁の説明では、既存の参事官(課長級)を課長へ名称変更する再編です。庁全体の定員純増は4人とされています
- 8月6日の要請の所管は「リスク分析総括課 金融犯罪対策室」であり、新設された暗号資産・ステーブルコイン課ではありません
ステーブルコインについては、電子決済手段としての規制と登録制度が資金決済法上すでに存在します。今回の再編は、既存の監督業務を新しい課の名称と所掌に明示したものです。
利用者側に生じ得る手続きの変化
要請の内容が各社で実装された場合に生じ得る変化を整理します。実装の有無・時期・水準・対象範囲は業者ごとに異なります。
- 入金や購入の直後は、一定期間出庫ができなくなる可能性があります
- 出庫先アドレスを事前に登録する手続きが導入される可能性があります。登録後も一定期間は出庫が制限される設計が示されています
- 出庫限度額が設定される可能性があります
- なりすましが疑われる場合に、追加の認証が求められる可能性があります
- 振込依頼人名と暗号資産口座の名義人名の一致確認が行われる場合、名義が異なる口座からの入金は処理されない可能性があります
いずれも、手続きに要する時間が変わるという形で表面化します。利用中の交換業者からの告知が、実際の適用時期と内容を知る材料になります。
現時点で未確定の事項
2026年8月8日時点では、次の点が確定していません。
1. 各社の実装内容
要請は業界団体宛であり、待機期間の長さ、限度額の水準、事前登録の手続き方法、適用する利用者の範囲は各社が定めます。
2. 改正金融商品取引法の施行日
公布から1年以内の政令で定める日とされており、日付は未定です。分離課税の適用開始時期と、報告書制度の適用開始時期はこの施行日に連動します。
3. 「特定暗号資産」の範囲
登録簿への記載に加えて、財務省令による除外と追加があります。省令が定まるまで対象範囲は確定しません。
まとめ
- 2026年8月6日、金融庁・警察庁が全暗号資産交換業者を対象に11項目の対策強化を要請した。所管はリスク分析総括課 金融犯罪対策室
- 11項目は、事前に手続きを挟むもの(出庫制限・事前登録制・限度額・認証強化など)と、検知後に対応するもの(モニタリング・凍結・警察連携など)に整理できる
- 申告分離課税(所得税15%・住民税5%)は2026年3月31日に成立・公布済み。適用は改正金商法の施行年の翌年1月1日以後で、政府答弁では令和10年(2028年)1月1日が想定されている
- 分離課税の対象範囲は財務省令による除外・追加があり、登録簿への記載だけでは確定しない。基準は登録された暗号資産取引業者への売委託・譲渡であり、国内登録業者を介さない取引は対象外
- 暗号資産を金商法へ移す改正は2026年7月15日成立・7月23日公布だが、主要部分は未施行
- 取引報告書の提出義務は、税制適用年のさらに翌年1月1日以後の行為から適用される
- CARFは非居住者等の情報を税務当局間で交換する枠組みで、取引報告書とは別の制度
- 8月7日付で組織再編が施行され暗号資産・ステーブルコイン課が置かれたが、5課同時設置の一部であり、課長級参事官の名称変更にあたる
税制および規制の内容は変更される可能性があります。金融庁・国税庁の一次情報と、利用中の交換業者からの告知が、手続きを確認する際の材料になります。
本記事は制度に関する一般的な情報提供であり、個別の税務相談ではありません。ご自身の申告内容については税理士にご確認ください。
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