金融庁が8月31日、来年度の税金のルールについて「ここを変えてほしい」という要望をまとめて公表しました。役所が毎年この時期に出す、いわば要望リストです。
このリストに、ビットコインなどの暗号資産の税金を変えるという項目は入っていませんでした。代わりに入ったのは、値動きを抑えた「ステーブルコイン」の一種について、信託銀行が税務署に出す書類を省けるようにしてほしい、という要望です。これは会社側の事務手続きの話で、個人が確定申告でやることは変わりません。
同じ日に、来年度の人員要求も出ています。暗号資産の取引業者を見張る体制を強くするため、新しく責任者のポストを置きたい、という内容が含まれています。
金融庁は2026年8月31日、金融庁の令和9年度税制改正要望についてを公表しました。同日、令和9年度予算、機構・定員要求についても公表されています。
この記事で分かること
- 令和9年度の要望項目に、暗号資産の課税の項目が入っているかどうか
- 信託型ステーブルコインについて何を要望したのか
- 分離課税の話は今回の要望とどういう関係にあるのか
- 定員要求に書かれた、暗号資産まわりの体制強化
- 経済団体(新経済連盟)が2027年度に向けて要望した暗号資産税制の4項目
- 現時点で未確定の事項
制度情報の整理であり、特定の投資判断や資産の移動を推奨するものではありません。
金融庁 税制改正要望 暗号資産 ── 令和9年度の主な要望項目5つ
税制改正要望とは、各省庁が「来年度の税のルールをこう変えてほしい」と毎年8月末までに出す文書です。要望した内容がそのまま決まるわけではありません。
金融庁が公表した令和9年度 税制改正要望項目(PDF)には、「主な要望項目」として5つが挙げられています。
| 主な要望項目 | 共同要望の省庁 |
|---|---|
| 金融所得課税の一体化(金融商品に係る損益通算範囲の拡大) | 経済産業省・農林水産省 |
| 銀行等の投資専門子会社による中小企業への出資に関する特例措置 | 経済産業省 |
| 生命保険料控除制度の拡充の恒久化等 | 農林水産省・厚生労働省・経済産業省 |
| 特定信託受益権(信託型ステーブルコイン)に係る所要の措置 | — |
| NISAの利便性向上等 | — |
この5つに、暗号資産の課税に関する項目はありません。資料には柱として「1.『資産運用立国』の推進」「2.子育て世帯への支援」「3.金融イノベーションの推進」の3つが立てられていますが、そのどこにも暗号資産の税率や課税方式を変えるという要望は置かれていません。
実際、資料の本文に「暗号資産」という語も「分離課税」という語も一度も出てきません。暗号資産に関係する記載は、後述する信託型ステーブルコインの項目と、巻末の「その他の要望項目」に並ぶ次の2行です。
◇ 一定の外国発行の信託型ステーブルコインを電子決済手段として規定することに伴う所要の措置
◇ 改正金融商品取引法等の施行に伴う所要の措置
なお「金融所得課税の一体化」は、株式や公社債とデリバティブ取引・預貯金のあいだで損益通算できる範囲を広げるという要望で、資料上、暗号資産は対象として挙げられていません。
信託型ステーブルコインとは ── 何を「提出不要」にしてほしい要望なのか
暗号資産まわりで唯一、主な要望項目に入ったのがこれです。
信託型ステーブルコイン(資料の言葉では特定信託受益権)は、日本円や米ドルなど法定通貨の価値に連動させる設計のコインのうち、信託というしくみを使って発行されるものです。資料の図では、電子決済手段等取引業者が信託銀行等にお金を預け、信託銀行等が受託者となってコインが発行され、それを利用者A・B・Cが順に持ち合う形が描かれています。
問題として書かれているのは、書類のつじつまが合わないという点です。原文はこう説明しています。
相続税法上、信託の受託者は、信託の効力が生じた場合や受益者等が変更された場合には、受益者等の氏名、信託財産の価額等を記載した調書(信託に関する受益者別調書)を、また、所得税法上、信託の受託者は、受益者等の氏名や信託財産に帰せられる収益・費用等を記載した調書(信託の計算書)等を税務署長に提出することとされている。
つまり、ふつうの信託であれば、持ち主が変わるたびに受託者が税務署へ書類を出す決まりです。ところがステーブルコインは決済に使うものなので、事情が違うと資料は述べています。
一方で、特定信託受益権(いわゆる「信託型ステーブルコイン(信託型SC)」)については、法定通貨と価値が連動する決済手段として、不特定多数の利用者間で転々流通し、頻繁かつ多数の取引に活用されることが想定されている。そのスキームにおいては、受託者が受益者(信託型SCの保有者)の氏名等やその変更を把握することができない
たとえば、あなたがこのコインで支払いをすると、持ち主はあなたから相手に変わります。ところが信託銀行の側からは、誰から誰に移ったのかが見えません。それでも法律の建付け上は書類を出すことになっている、という状態です。図にも「受託者は受益者情報の把握ができない」と注記されています。
そこで金融庁が要望したのが、次の内容です。
特定信託受益権に係る信託について、受益者等の変更等があった場合における相続税法上の「信託に関する受益者別調書」及び所得税法上の「信託の計算書」について提出を不要とするなど、所要の措置を講ずること。
書類を出す義務を負っているのは信託銀行等(受託者)であって、コインを使う個人ではありません。したがってこの要望が通っても、個人の確定申告のやり方や納める税額が変わるという記載は、資料にはありません。
ステーブルコインを国内で扱う会社の登録制度そのものについては、電子決済手段等取引業者の登録一覧の記事で扱っています。
暗号資産 税制改正 いつから ── 分離課税は今回の要望とは別の話
「暗号資産の税制改正はいつから」と調べたときによく出てくる申告分離課税は、今回の要望とは別の流れの話です。混同しやすいので、段階を分けて整理します。
| 段階 | 状況 |
|---|---|
| 成立・公布 | 暗号資産の譲渡益等に申告分離課税を導入する所得税法等の改正は、2026年3月31日に成立・公布済み |
| 施行 | 前提となる改正金融商品取引法は2026年7月15日成立・7月23日公布。主要部分は公布から1年以内の政令で定める日に施行で、日付は未定 |
| 適用開始 | 改正金商法の施行年の翌年1月1日以後の譲渡から。国会答弁では令和10年(2028年)1月1日が想定と説明された |
すでに法律として成立しているものなので、今回の要望に入っていないこと自体は、分離課税が止まったという意味ではありません。要望リストは「これから変えたいこと」を書く文書で、成立済みのものは通常そこには載りません。
一方で、今回の要望に暗号資産の課税を追加で変える項目が入らなかったのも事実です。2026年分の暗号資産の所得の扱いは、この公表によって変わりません。
この経緯の詳細は金融庁の暗号資産11項目要請の記事にまとめてあります。
暗号資産 税金 20% ── 経済団体・新経済連盟は個人間の直接取引にも広げるよう要望
来年度の税制について要望を出すのは省庁だけではありません。経済団体の新経済連盟(一般社団法人新経済連盟。代表理事:三木谷浩史)は2026年9月11日、2027年度税制改正提言を公表しました。全80ページの提言本体(PDF)の38ページ目が「暗号資産税制」で、「趣旨」と「具体策」の2つに分かれています。趣旨は次のとおりです。
Web3市場が急速に拡大する中、現行規制や税制が足枷となり、有望なWeb3企業が国外流出。Web3企業の流出が続けば、日本がWeb3市場から取り残される恐れ
スタートアップ支援を含むWeb3ビジネス振興の観点からも、トークンエコノミーの市場形成・発展を促進するための対応を急ぐべき
具体策は4つに分かれています。言い換えると要望の射程が変わるため、原文のまま並べます。
| 区分 | 具体策(提言の原文) |
|---|---|
| 所得税一般 | 暗号資産取引業者を介した場合のみならず、個人間で直接行われた場合であっても、暗号資産の取引から生じる利益について申告分離課税(一律20%)の対象とするとともに、損失について、暗号資産に係る所得金額からの繰越控除を認めるべき |
| 資産課税(相続税) | 暗号資産の相続税評価額について、相続開始日の最終価格(時価)のほか、相続月を含む過去3か月間の月平均時価も含めて最も低い価額とすることを認めるべき |
| 暗号資産同士の交換 | 暗号資産取引の際に生じる損益への課税については、暗号資産同士を交換する都度のタイミングではなく、保有する暗号資産を法定通貨に交換する際にまとめて行われるよう見直すべき |
| 寄附税制 | 暗号資産による贈与(寄付)等について、所得税法第59条(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)の適用も可能とするなど、暗号資産による寄附を阻害しない税制とすべき |
すでに成立している申告分離課税には、対象になる譲渡の方法・相手方の限定があります。国税庁の令和8年分 譲渡所得・山林所得関係の改正のあらまし(PDF)は、この特例をこう説明しています。
居住者等が、暗号資産(金融商品取引業者登録簿に登録されている一定の暗号資産などに限ります。以下「特定暗号資産」といいます。)の譲渡(暗号資産取引業者への売委託により行うもの又は暗号資産取引業者に対するものに限ります。)をした場合におけるその特定暗号資産の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得(以下「特定暗号資産に係る譲渡所得等」といいます。)については、20%(所得税15%、個人住民税5%)の税率による申告分離課税の対象とされました(措法38の2、措令25の15の2)。
引用文の括弧書きで限定されているのは、次の2点です。
- 銘柄が「特定暗号資産」にあたること(金融商品取引業者登録簿に登録されている一定の暗号資産など)
- その譲渡が暗号資産取引業者への売委託によるものか、暗号資産取引業者に対するものであること
なお、この特例は居住者等が行う譲渡について定められたものです。また、この範囲の譲渡で生じた損失のうち控除しきれなかった金額は、一定の要件の下で、翌年以後3年間にわたり特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額から繰越控除できるとされています。新経済連盟は、暗号資産取引業者を介した場合だけでなく、個人間で直接行われた場合も申告分離課税の対象とし、繰越控除を認めるよう提言しています。
提言は要望であって、決まったことではありません。民間の経済団体が公表した文書で、上で見た金融庁の税制改正要望とも別のものです。実際の内容は年末の税制改正大綱と、その後の法案審議を経て決まります。
金融庁の定員要求 ── 暗号資産取引業者のモニタリングに室長を置く要求
同じ8月31日に公表された機構・定員要求の資料(PDF)に、暗号資産に直接ふれた記載があります。冒頭は「金融行政を巡る課題に適切に対処するため、以下の機構・定員を要求」です。
全体の人数は、原文でこう書かれています。
※定員は、合計32人の増員要求(定員合理化等▲18人)⇒差引14人純増要求
このうち「新たな金融サービスに対応するための体制強化」が13人で、内訳は4つです。
- 暗号資産取引業者に対するモニタリング体制の強化(室長の設置等)
- フロンティアAI等の新たな技術進展に伴うリスクへの対応(企画官の設置等)
- デジタル技術を活用した決済の高度化推進(室長の設置等)
- 電子決済手段等取引業者の監督体制の強化
もうひとつの柱「金融機能の更なる発揮、金融システムへの信頼の確保」(19人)のなかには、無登録の業者を調べる体制についての記載もあります。
大量保有報告書に係る開示検査や無登録業者に対する犯則調査の実施体制強化(統括調査官、統括特別調査官の設置等)
いずれも要求の段階です。要求した機構や定員がそのまま認められるとは限らず、最終的な結論は予算編成の過程で決まります。金融庁の予算関係の資料は予算・決算のページにまとまっています。
現時点で未確定の事項
- 要望が通るかどうか。税制改正要望は各省庁が出す要望であり、実際の内容は年末の税制改正大綱と、その後の法案審議を経て決まります
- 「改正金融商品取引法等の施行に伴う所要の措置」が指す改正法。要望項目の資料に明示がありません
- 信託型ステーブルコインの措置の適用時期。資料に時期の記載はありません
- 機構・定員要求の結果。新設を要求している「室」がどの課の下に置かれるかも、資料には書かれていません
- 改正金融商品取引法の施行日。公布から1年以内の政令で定める日とされ、日付は未定です。分離課税の適用開始時期はこの施行日に連動します
- 新経済連盟の提言が反映されるかどうか。民間の経済団体が公表した要望であり、年末の税制改正大綱に載るかどうかは決まっていません
- 概算要求の金額。本記事では扱っていません(一次情報のPDFから金額を正確に読み取れなかったため)
確認日: 2026年9月1日(新経済連盟の提言と国税庁の改正のあらましに関する記述は2026年9月17日に確認) 本記事は、金融庁が2026年8月31日に公表した資料、新経済連盟の2027年度税制改正提言、および国税庁「令和8年分 譲渡所得・山林所得関係の改正のあらまし」に基づく制度情報の整理です。掲載内容は確認日時点のものです。 ご自身の申告内容については税理士にご確認ください。
この記事のまとめ
- 金融庁は2026年8月31日、令和9年度の税制改正要望を公表しました。「主な要望項目」5つの中に、暗号資産の税率や課税方式を変える項目はなく、本文中に「暗号資産」「分離課税」という語も一度も出てきません
- 暗号資産まわりで唯一入った要望は、信託型ステーブルコイン(特定信託受益権)について、受託者(信託銀行等)が税務署へ提出する「受益者別調書」「信託の計算書」を不要にしてほしいというものです。これは受託者側の事務手続きに関する要望で、個人の確定申告のやり方や納税額が変わるという記載はありません
- 既に成立済みの暗号資産譲渡益への申告分離課税(2026年3月31日成立・公布)は今回の要望とは別枠で、適用開始は改正金融商品取引法の施行日に連動し、施行日自体はまだ未定です
- 同日公表された定員要求では、暗号資産取引業者へのモニタリング体制強化として室長ポストの新設などを含む「新たな金融サービスに対応するための体制強化」13人分が挙げられています
- 経済団体・新経済連盟は2026年9月11日、個人間の直接取引にも申告分離課税を広げることなど4項目の暗号資産税制を提言しましたが、これは金融庁の要望とは別の民間団体の文書です
- 要望が通るかどうか、信託型ステーブルコインの措置の適用時期、改正金融商品取引法の施行日、新経済連盟の提言が反映されるかどうかは、記事内で未確定の事項として明記されています
この記事に出てくる言葉
- 税制改正要望
- 各省庁が「来年度の税のルールをこう変えてほしい」とまとめて公表する文書。例年8月末までに出されます。要望した内容がそのまま決まるわけではなく、年末の税制改正大綱と、その後の法案審議を経て決まります。
- 特定信託受益権
- 信託というしくみを使って発行され、法定通貨の価値に連動させる設計のコインについての法律上の呼び方。金融庁の資料では「いわゆる『信託型ステーブルコイン(信託型SC)』」と説明されています。信託銀行等が受託者となり、預かった資産を裏付けにコインが発行される形です。
- 申告分離課税
- ほかの所得と合算せず、その所得だけを分けて税率をかけ、確定申告で納める方式。暗号資産の譲渡益等にこれを導入する改正は2026年3月31日に成立・公布されていますが、適用は改正金融商品取引法の施行年の翌年1月1日以後の譲渡からで、まだ始まっていません。
- デリバティブ取引
- 株式や通貨などの値動きをもとに損益が決まる取引の総称。先物取引やオプション取引がこれにあたります。金融庁の要望では、この取引と株式などのあいだで損益通算できる範囲を広げることが挙げられています。
- 損益通算
- ある取引で出た利益と、別の取引で出た損失を差し引きして、税金の計算のもとになる金額を出すこと。たとえば10万円の利益と4万円の損失を通算できれば、6万円に対して税金がかかります。どの商品どうしを通算できるかは法律で決まっています。
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